IPA 地域間精神分析百科事典

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対象関係論に関する北米の精神分析文 化 の現代的 傾向 には、精神内 界 の対象 および 自己表 象のさま ざ まな 統合 的 概念化 が 含 まれ、それらは現在では、欲 動、情動、 記 憶 、認 知 過程 と連動して 力 動的に 進化 していると み なされてい る。精神構造の発達における欲動、情動、内在 化 された対象関係、外在的対象 関係の相互作用は、様々な精神分析の 観点 から、発達の連 続性 と 変 容 にとって 最も重要であると 考 えられている。対象関係と欲動理論の間の歴史的な 区 分を 見 直 すとき、両者が発達 上 も生 涯 を 通じ ても 密 接に関連していることから、両 者が「 誤 った 二 分 法 」になっていることを 指 摘 する人もいる。精神内 界 の( 自 己 と対象) 表 象 世 界 は、 部 分的には「現実の」外的対象 世 界 との相互作用に 由 来 するが、内的で 力 動的な「 駆 動 力 」によっても形成される。現代の北米の精 神分析では、あら ゆ る 志 向 性 において、欲動理論の初 期 の定式 化 が、対象の現 実的 属 性 と現実の対象との同一 化 を 十 分に 考慮 していなかったという認識が 高 まっている。 逆 説的ではあるが、北米の精神分析論文におけるこのような 統合 的 傾向 と 並 行 して、 新 たな現代的論 争 が生まれ、さらなる 研究 の 潜 在的な実りある 領 域を 縁 どっている。たとえばそれは生 後数 週 間から始まる、 自己 と他者の共生的 ( 二 重の) 統合 と分 化 の両方に対する 双 方 向 の 非 線 形的な 努 力 の、 早期 の神経 生 物学 的かつ 力 動的な発達的出現の主 張 などである。また、乳 幼 児 期 における 養育者との対の発達に関する 知 見 を、成人の 臨床状 況 にどのように 適 用できる かという 点 についても、実り 多 い論 争 が 繰 り 広 げ られている。これは 継 続 的な 議論とさらなる 研究 の 問題 であり、発達的な 変 容 と ライフイ ベ ント へ の 適 応 の 複 雑 さを 回避 しないように 注 意する 必 要がある。 多く の北米の 著 者にとって、精神発達の 真 の 統合 的理論には、 非 線 形で現出的 な現象を 提 供する システ ム や 複 雑 性 理論のような 新 しい認識論的 モデ ルを 受 け 入れることが 必 要である。 人間の主体が他者に 根 本 的に 依 存していることは、 特 に 幼 児 期 において、し かし 部 分的には生 涯 を 通じ て、あら ゆ る理論的方 向 性 を持つ精神分析 家 が認め る 否 定できない 事 実である。 カ ント 以来 、 私 たちは、外的対象を文 字 通 り「 飲 み込む 」ことや、それに 直 接 アク セ ス することは 不 可 能 であることを 知 ってい る。 知 覚 と 表 象の間には、 常 に フィ ルターがあり、主体の心の 過程 がある。し

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