IPA 地域間精神分析百科事典

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理学 用語を用いて「 相互 交流における自 我 のための 相互退 行であり、 両 方の 参与者 の 漸進 的 な 精神内界 的 成 長と 発達 に 資 することでそれらを 満 たすものである」と 更 に拡 張 されてい る( Freeman, 1988,p.47 )。日本の 精神 分 析事 典の 編集者 (小 此木啓吾 、北 山修 、 牛島 定 信 、 狩野 力 八郎 、衣笠隆幸ら 2002 )もまた、 土居 の定義に 基づ いており、 甘え の力動的 基礎 に 含 まれる 前 言語的に 根ざ した情緒的依存の 複雑 さを 指摘 している。 ヨーロッパおよ び 中南米におけるどの IPA 言語による 辞書 や用語 辞 典にも 甘え は 掲載 さ れておらず、この用語は、 今 に 至 るまで、広く 精神 分 析 的な関係 者 に ほぼ知 られることはな かった。この 項目 は、上 記 のす べ ての出典を元にし、拡 張 するものである。

Ⅱ . 概念 の 発展

心理 的現象として、 甘え の 概念 は 土居 健 郎 の 1971 年 の 『 甘えの 構造』 の出 版 によって 紹 介 され、強 調 された。この本は、 1973 年 に 西洋 の 読者 のために 翻訳 された。 彼 は、日本 社 会 と 臨床場面 における 様 々な 甘え の行動を 描写 した。そして、日本人の 心理 を 理解 する中で、 甘え という 概念 の 基 本的な 重 要性に つ いての 考 えを 発展 さ せ た。 彼 は、 甘え を「依存あるい は情緒的依存」と 訳 した。そして、 甘える を「人の 善 意に依存し 前提 とすること」( 1973 ) を意味すると定義した。 彼 はそれを「 無 力さと愛されたいという願望」そして「愛されたい という 欲 求」の表現を 示 していると 考 え、それを依存 欲 求に同 等 であるとみなした。 彼 は、 母親に対しての関係における乳児の 心理 の中にその 原 型を見る。乳児と言っても 新 生児で はなく、母親が 独立 した存 在 であると 既 に認 識 した乳児である( 土居 1973 )。後の 著作 で、 土居 ( 1989 )は 甘え の力動的定 式 を拡 張 している。 「甘え」 概念 に つ いていま一 つ重 要な 点 は、「甘え」は愛されたい 欲 求が 満 たさ れて 満足 する状 態 を意味するとともに、そのような 欲 求自体を意味することがで きることである。というのは甘えの 満足 に 必 要な 相 手の 協 力はい つ も 期待 できる とは限らない。したがって甘えが 満 たされていない状 態 を表現するいく つ もの日 本語が存 在 するが、そのような状 態 をも 端 的に甘えと 称 することがある。という のは甘えが 満 たされている際よりも 満 たされていない 場 合の方がはっきり 欲 求と して認 識 されるからである。このような「甘え」の語の用法に関連するが、甘え にはたしかな受け手がいる 素直 な甘えと、そうではない 屈折 した甘えの 二種類 が 存 在 することになる。 前者 は 幼 い子 供 に ふ さわしく、 無邪気 で、 落 ち着いている が、後 者 は子 供 っ ぽ く、わがままで、要求がましい。 簡単 に言え ば 、いい甘えと

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