IPA 地域間精神分析百科事典

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してみなすことができるかもしれない。彼の発達モデルでは、子供の自我は身体と心の母親 / 乳幼児の相互の関わり合いの核から生じる。そこでは母親の心は、統合と崩壊を繰り返し ながら螺旋状に発達しつつ未分化な幼児の状態と相互作用し、更なる統合に向かっていく。 この発達モデルは、 個人に焦点を当てている 時でさえもすべての経験が 間主体的な相互作 用 から生じるという意味で転移と逆転移と密接な関係がある (Loewald 1960) 。分析家の反 応が患者の無意識からの強い圧力下にあるような子供の分析と精神病圏そしてボーダーラ インの患者との分析から生じたこの発見の重要性を認めて、 Loewald (1971) は転移と逆転 移は別々に見ることはできず、分析家と患者はともに転移 — 逆転移反応を提示すると更に 主張する。それらは 分析的過程の普通にあるなくてはならないもの なのだ。 Loewald の洞察は著しく多様化した北米の精神分析的文化においてだけでなく、世界中 で逆転移の議論の豊かなひな型となった。この時点以降、逆転移は 患者と分析家が絡み合っ た 分析的 関係 において避けられない側面であるとみなされた ― これは今日の精神分析で優 勢な考え方の一つである。 この視点はフランスにおけるフランス間主体的学派の考え、ベルギーおよび北米のフ ランス語を話す分析的コミュニティのいくつかの要素と類似しているところがある。「第 3 のモデル」と時に呼ばれているが、この視点は人間の発達において「二者心理」が欲動、防 衛、そして心的内界の空想の「一者」的な心的自律性に先んずると仮定する。つまり人間の 人生における最初の段階で、乳児の心は無意識、前意識、意識システムの間の内的な局所論 的区別や、イド、自我、超自我(一者心理)という構造化がなされる前に、養育環境(二者 心理)の文脈で考慮されるべきだということである。「主体化」(このようにして内的に区別 され構造化された主体になること)の過程を通して、「現実の(潜在的に外傷を与える)他 者」 (Lacan 1966/1977) との親密なつながりが最大となる。 Laplanche (1993, 1999) は Lacan のいう「外傷的な現実(他者)」 — 養育者 — を間主観的領域に持ち込んだ。彼は乳幼児の身 体と近接することで引き起こされる(大人の養育者の)無意識的セクシュアリティが 謎めい たメッセージ という形で乳幼児との親密な交流を「汚染する」ことを強調した。他の分析家 達は子供 / 患者が「私を構成し」( Aulagnier 1975/2001, p. 97 )、そして親 / 分析家が「考えを 形成することに必要な」 (Green 1975, p. 14) 象徴化と表象化を促進しながら適切な距離にい る能力を通じて、「表象する活動」そして「情緒に名前をつけることにおける事後性」に焦 点を当てることで、この発達の概念を臨床での交流と逆転移に直接応用できる領域にまで 広げた。 「共有され伝達される情緒」 (Parat 1995) そして 脱中心化された臨床的傾聴の「逆 転移ポジション 」 (Faimberg 1993) にあるように、臨床的には、このことは、患者と分析家 との間の言葉と行為を通じた無意識的交流と情緒の伝達のすべての形を注意深く「聴くこ と」に言い換えることができる。

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