IPA 地域間精神分析百科事典

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Ⅳ.C.ヨーロッパでの発展と臨床との関連

ヨーロッパの分析家は、エナクトメントという用語とそれに近い逆転移や行動化のよう な用語を、その概念が暗に意味している臨床での現象を扱う時に用いる。彼らは概して彼ら 自身を明確に分析状況に限定する。 さらに言えば、ヨーロッパの分析家は、行動化あるいはエナクトメントについて語るとき に同じ臨床的事実を指して言っており、両者を同義のように用いている。けれども、 (Paz,2007)、一部の分析家にとって、エナクトメントは Freud の用語である行為 Agieren に 始まる行動化の発展とみなすことができる。それにもかかわらず、両者を区別しながらも、 それらが分析過程の異なる瞬間に起きるなら、臨床の場で共存できると考えるその他の分 析家がいる(Ponsi,2013)。Sapisochin によれば、精神分析のカップルのエナクトメントは 抑圧されていない無意識の洞察にいたる王道だ。この無意識は、言語では表せないのではあ るけれども、情緒的な経験についての想像上の記録の様式をとっており、これを著者は「心 的な振舞いpsychic gesture」と呼ぶ(Sapisochin,2007,2013,2014,2015)。 多くのヨーロッパの著者は分析家のエナクトメントは患者の行動化あるいはエナクトメ ントの結果だと考える。それゆえエナクトメントは分析家だけではなく患者にも関係する 事実を表す。ことによるとヨーロッパの分析家の一部には、分析家と患者の両者に対してエ ナクトメントの概念を優先して用いる者もいる。けれども患者に言及する際には、一部の著 者は分析家をエナクトメントに引き込むための患者の「圧力」あるいは「行動化」について 語る。 彼らはエナクトメントを、少なくとも部分的には、患者と分析家の間で進行しているこ とを理解するのに先立つ不可欠な何かだとも考えている(Pick,1985; Carpy,1989; O’Shaughnessy,1989; Feldman,1994;Steiner,2006)。 フランスの精神分析家の中では、「行動化」という用語(‘ Passage à l'acte ’と訳され た-Mijolla,2013)はかなり一般的だが、その一方で「エナクトメント」という用語はほと んど用いられない。しかし、その他の精神分析コミュニティではエナクトメントと呼ばれ るものに似た分析状況に対して、注意が向けられている。それらは通常、「 mise en scéne ( 演出 )」あるいは「mise en jeú( 対峙 )」といった表現を用いて説明される。 Gibeault(2014)は、新しい語「エナクシオン énaction」を導入し、逆転移的な「エナクテ ィヴな共感enactive empathy」(empathie énactante)を通じて変形をもたらす力を秘めた 振舞いと言葉によるある種の行為を記述した。更にイタリアのDe Marchi(2000)と Zanoccoら(2006)は共感、より正確には「感覚的共感sensory empathy」を、一次的な結 びつきの領域に属するエナクトメントに近い基本的コミュニケーションとみなした。 Green は「エナクシオン énaction」を設定への攻撃と考えた(Green,2002)。同じくフラン ス語圏において、ベルギーの著者Godfrind-HaberとHaber(2002)は「L’expérience agie partagée」(「共有され行為化された経験」)でエナクトメントに関連する概念を幅広く記

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