IPA 地域間精神分析百科事典

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の役割応答性という概念を記述したが、これは、患者に属する内的対象に無意識的に同⼀化 し、そしてセッションにおけるエナクトメントに携わる分析家の能⼒に関わる。分析家はそ の後においてのみ何が起きたのかを意識するようになるのであり、そしてそれから、⽣じた ことに関する空想的意味についての解釈を定式化できるのである。この種のエナクトメン トは、ふるまいや特定の⾝体反応という点で、分析家の⾝体を巻き込むかもしれない。 イタリアの精神分析 (例えば Bolognini, Bonaminio, Chianese, Civitarese, Ferro)では、 Winnicott や Bion の仕事を継いで、分析家の分析的態度の様々な要素に関する思索が発展 してきており、逆転移や構成という概念の理解を広げ、そして分析家の⾝体を含めた「分析 家という⼈間」に焦点を当てる。Bologniniは精神分析的共感 (2004)という主題を探究して きた。彼はこれを、セッションにおける分析家と患者との間の深い情緒的な接触と洞察の瞬 間に位置づける:「情緒、想像、内省の⾒事な組み合わせであり、それによって、何が起き ていたのかについて患者と私⾃⾝の双⽅が⼗全に理解することが可能となっていたのだっ た」(2004, p. 13)。設定の四分円 the quadrants という Antonino Ferro の叙述は、設定とい う概念を拡張することに寄与した (1998)。それらは設定に関する4つの主な定義であり、 普及している様々に異なる意味を強調しつつも、結びついて全体としての設定を構成する。 第⼀の四分円は、形式に関する⼀連の規則(カウチ、頻度、料⾦など)である。第⼆の四分 円には分析家の精神状態が含まれるが、Ferro によると、これは患者の投影同⼀化次第で変 化し、分析が進展するための鍵となる条件である。第三の四分円は⽬標としての設定に関連 し、被分析者が設定を壊すことを―特により重度に障害されている患者の場合には―コミ ュニケーションの試みと⾒なす。ここにおいて Ferro は、従来とは異なる⾒⽅を強調してい る。すなわち彼の考えでは、規則を破ることは⾏動化を表すというよりもむしろ、コミュニ ケーションの⼀様式なのであろう。(Limentani, 1966,もまた、⾏動化をコミュニケーション として理解するというこの点を強調してきた。)終わりに、最後の四分円に含まれるのは、 分析家による設定の混乱であるが、これは José Bleger の考えに基づいている。

Ⅳ.設定と退⾏

退⾏という概念は議論の分かれるものである。⾃我⼼理学の伝統に従う分析家たちにと って設定とはある条件であり、その条件の下で、転移神経症の分析を可能にするために「⼀ 定の受動的な環境の不変性によって、彼[患者]を乳幼児の⽔準に順応するよう、つまりそ れへと退⾏するよう強いる」(Macalpine, 1950, p.525)のである。対照的に Winnicott は、分 析設定のポジティブな側⾯が、退⾏を可能にする促進的な抱える環境を提供するという⾒ 解を唱えた。強調点は、活発であり応答してくれる環境―その中では、設定が分析家の態度 の諸側⾯を表す―にある。Winnicott が強調したのは、発達の障害が偽りの⾃⼰の形成をも

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