IPA 地域間精神分析百科事典

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げたテクストである『夢解釈』( Freud, 1900 )で最初に報告された夢が、卓越した 逆転移の 夢 である 1895 年の「イルマの注射の夢」だということは注目に値する。 ちょうど『夢解釈』を書いていた頃である 1895-1899 年の自己分析の間の Freud の生活 の Harold Blum ( 2008 )と Carlo Bonomi ( 2015 )による歴史的再構成は、 Freud の Fliess への転移、および Freud と Fliess の共通の患者 Emma Eckstein (夢の中では「 Irma 」、後 には最初の女性の精神分析の治療者)への Freud の逆転移の複雑さを明らかにしている。 Blum と Bonomi は、この逆転移がどのように彼の理論の発展を(とりわけ、両性性から異 性愛規範性へ、誘惑による外傷論から精神性的発達、無意識的空想および精神内界的葛藤と いう精神分析的な概念化へ、という発展を)形作ったかを論証する。この文脈において逆転 移概念は、「精神分析の誕生」からその発展全体を通じて、理論と実践、臨床的な作業と概 念化の不断の交流を例証しわかりやすく説明する。 Freud はこの概念を導入したが-転移の場合とは異なり ― 逆転移を分析の作業の効果的 なツールとして作り上げる歩みに明白には踏み出さなかった。 Freud の明示的な初期の観 点は逆転移の「狭義」の視点と呼ばれるようになった。彼の初期の信奉者の多くは、初期の 精神分析の教科書、口頭発表や学会誌で明らかなように( Stern, 1917; Eisler, 1920; Stoltenhoff 1926; Fenichel, 1927, 1933; Hann-Kende, 1936 )、この「狭義」の視点に従っ た。英語表記ではこの狭義の視点は「逆‐転移 counter-transference 」としばしばハイフン を用いて記載され、分析家の患者の転移に対する無意識的な(転移的な)反応を強調した。 この視点から生まれた興味深い記述が Helene Deutch (1926) によってなされた。彼女は「 相 補的ポジション complementary position 」としての逆転移という考え方を導入したが、そ れは後に Heinrich Racker の独創的な寄与の中で練り上げられた。 この狭義の視点の行く末を見ると、とりわけ、例えば Annie Reich (Reich, 1951) のよう なフロイト派の技法の標準的な支持者のその他の仕事の中に、さらには、幾分異なる視点か ら、 Jacques Lacan (1966/1977) の仕事の中にも、そのような狭義の視点が引き続き保たれ ていることを見ることができる。 Reich は「逆‐転移」を 分析家の 分析的な共感への転移 性の障害 として強調するのだが、 Lacan は分析家と患者の非対称的な関係の中で分析家の 知識と「力 power 」の影響を改変し広げているにもかかわらず、逆転移をもっぱら思い違 い、神経症、および分析家の全般的な機能の破れ目の貯蔵庫であり、解釈の作業には必要が ないものとみなしている。患者の欲望よりも状況の間主体的な力動全体を理解するという 分析家の欲望の優先を考慮に入れることが必要だという逆転移に関するラカン派の概念は ― 精神分析において「抵抗」はまず、そしてまっさきに 分析家の抵抗 だという彼の有名な発 言により繰り返されているとおり ― 特にヨーロッパと北アメリカのフランス学派の間主体 的な方向性の中で今日でもなお鳴り響いている( Furlong, 2014 )。 とはいえ Freud は、分析家は患者の無意識のなにかを分かるか気づくことができる治療

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