IPA 地域間精神分析百科事典

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広く根付いている古典的伝統の現在の状況は、逆転移分析の位置付け、機能そして限界 について学派の内外で討論が続いているというものである。分析家の逆転移の使用につい ての Jacob ( 1993 )独自の理論的な仕事は対象関係論、現代フロイト派( Sandler 1976 )、自己心理学に由来している。 Jacobs にとって逆転移はもっともはなやかで 多様に 配置された 形態で現れ、転移と同様に(独自の)豊かさと多くの問題を含んでいる。身 体、こころ、空想、対人経験のすべてといった分析家が用いることのできるすべてが分析 ワークには必要不可欠であると彼は論じている。今や逆転移は分析家の仕事にとっての問 題ではなく、解決(の一部)であり、必要不可欠なものである。 Jacob の 分析的主観性の 使用 には、すべての分析カップルの経験を支え連絡する - メタ的、意識的、前意識的、無 意識的で-微妙で 広範なコミュニケーション に関する想定が組み入れられている。 意味‐ 生成 が豊かに共構築されるには、分析家にはこれらの複雑なコミュニケーションにおける 自分自身の部分について非常に深く探求し理解することが必要不可欠となる。 Jacobs(1991,1999,2001) や Smith(1999,2000,2003) 、そしてより対象関係論に近い分析家 である Ogden(1994,1995) や Gabbard(1994) らとの間には相違があるにも関わらず、分析 的なワークを最終的に進める自己分析には、分析家の主観性は欠かせないとしている。こ の思考の系列では、逆転移はエナクトメントの典型として考えられている。( Harris 2005; 別項の ENACTMENT を参照のこと。) 逆転移の反復的、強迫的側面について考えるとき、 Smith(2000) は逆転移は分析的進展を 遅らせることも促進することも(同時に起きることさえ)あるだろうと述べている。ここで Smith は Freud が転移について行ったことを逆転移について行っているのである。すなわ ち、抵抗にも変化の原動力にもなりうることを示しているのである。すべての反復強迫に関 するように、 健康への衝動も病気への衝動 も同時に存在しているのである。 Apprey ( 1993,2010,2014 )は、 Sandler の逆転移に駆り立てられる役割応答性を拡張し、 次のように述べている。「現在における臨床的設定という公けの場所で、歴史に根差した不 満を繰り返すまたはひっくり返そうとする無意識的な願望により駆り立てられた転移‐逆 転移連続体の中で、嘆願、要求、喚起されるものすべてに言及する。」( Papiasvili にあてた 私信、 2014 )投影同一化、エナクトメント、役割応答性の複雑さを架橋する現代フロイト派 である Apprey は、この概念の北アメリカにおける特徴的な現代の用い方および拡張につい て、役割に応答する分析家を患者自身のこころの内部から、患者に侵入し苦しめる「破壊的 で圧制的な内的対象からの・・・ 心的な開放」を可能にする ものとして描写している。 Freedman 、 Lasky や Webster ( 2009 )は 間主体的なマトリックス の内部での象徴化と三 角化についてフロイト派、ラカン派、ウィニコット派の概念を複雑に組み合わせている。一 方で、いわゆる 普通の逆転移 と 異常な逆転移 を区別している。普通の逆転移は一時的な混乱 であり、異常な逆転移は行き詰まりであり、分析家にとって耐えられないもので分析家の意

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