IPA 地域間精神分析百科事典

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識から閉め出す必要があるものである。「欲望のレンズ」( Lacan,1977 )を通してみられる ものというラカン派の逆転移理論と「ほどよい分析プロセス」、「潜在力のあるブレークダウ ン」というウィニコット派の枠組みがここで出会っている。

Ⅲ .B. フィールド理論とそれに関連した視点 Ferenczi と Sullivan ( 1953 、 1964 )によって臨床的に予見され、また対象関係論の進展 に影響されながら、「フィールド」の概念は逆転移に関する議論に入りこんできた。 Maurice Merleau-Ponty ( 1945 )の現象学と Kurt Lewin ( 1947 )のヨーロッパ‐北アメリカの新ゲ シュタルト社会心理学的力動フィールド理論にルーツを持つ精神分析家(特に中南米とイ タリアの、そしていくぶん少なくなるがアメリカの)は、この視点を生かして、状況のすべ ての側面がすべての他者と密接なかかわりあいをもつという 統合された全体 として 分析設 定 もしくは分析状況を理解した。このシステムにおいて、逆転移は精神分析治療における 入 り組んだ体験 web of experience の避けられない側面である。逆転移のこうした考えの代表 的存在はアルゼンチンの分析家である Willly Baranger と Madeleine Baranger である。設 定によって範囲が定められてはいるが、ふたりが避けられない微妙な方法でお互いに相互 作用し、 展開し続けるふたりのフィールド evolving bi-personal field として彼らは分析的 プロセスを描写する。 精神分析プロセス は同じように転移と逆転移から始まる「 共同で創造 するもの joint creation 」である。転移-逆転移が「 要塞 」( Baranger and Baranger 2008, 初出は 1961 )を作り出す可能性を孕んだ力動的フィールドから生じるというこの考え方は、 分析家と被分析者が 行き詰まり および 新たな創造 にあることを意味している。フィールド の構造は「患者と分析家において異なる限界、機能、性質をもって作用する投影同一化、取 り入れ同一化、逆同一化プロセスの相互作用によって構成されている」(同書、 809p )。ブラ ジルの Roosevelt Cassorla ( 2013 )は 急性および慢性エナクトメント という現代的な概念 を発展させた。それは分析ペア間の相互の行動的な発散として生じて、 分析的フィールドに 侵入 するのだが、そのことは、言語の 象徴機能が損なわれた 状況への回帰を反映している。 こうした最近の中南米の逆転移の考えは、 Baranger 夫妻や Bleger ( 1967 )の伝統や業績に ルーツを持ち、 Racker ( 1968 )や Grinberg ( 1968 )と相互に交わり合いながら、しばしば ラカン派に影響を受けて( de Bernardi 2000, Cassorla 2013 )発展してきたものである。 分析的フィールド論はヨーロッパと北アメリカの両方でさらに発展してきた。アメリカ の Stern ( 1997 )は 対人関係学派の視点からフィールド論 を独自に洗練させてきた。ヨーロ ッパのフィールド論の代表格のひとりである Ferro は フィールド論 と ビオンの考え を融合 してきた。 Ferro と Basile の共同研究( Ferro and Basile 2008 )では、それぞれ固有の生 き様をもつ患者と分析家の中の 複数の人物 がまるで舞台の上でのように出会う場所として 今日フィールドは理解されている。彼らは分析セッションごとに現れる物語にフォーカス

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