IPA 地域間精神分析百科事典

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象徴化する 能⼒ の ⽋ 損 もしくは 障害 の 程 度 に 応じ て エナクトメント はさま ざ まな 質 と強 度 がある。もっとも 穏 やかなものは「現 実 化 actualization」(Sandler,19 7 6)で、分析家 へ の 転移的な願望を 満 たそ う とするものである。 最 も 悪質 なものは分析家の 能⼒ を 損 なわせる もので、分析的な 治療 と考えられるものの制限を超えて分析家の 権威 へ の 悪 ⽤ へ と つ なが る(Bateman,1998)。 エナクトメント が 有害 であるか、それとも 必要 で 有 ⽤であるか どち らなのかとい う こと が精神分析の⽂ 献 で論 じ られている。神 経症 的な 側⾯ が 優勢 であると き ですら、分析家が 外 傷 的で、精神 病 的もしくは 境界 例的な 付 置 に 直⾯ した 際 、 エナクトメント は ⾃ 然 に⽣ じ ると 考えることがト レ ン ド となっている。エナクトメントが理解された 後 には、 確 かに 有 ⽤であ る。しかし、この理解は あとで分かる N achtraglichkeit やり⽅で( apr è s coup もしくは 事 後 作⽤によって)同定された 後 になってよ う やく得ることがで き るものである。 ⼗ 分に同定さ れていない エナクトメント は分析 過 程 を 妨害 し、 破 壊 し う るのである。

Ⅲ . A . 北⽶における概念の 進 展 イ ギ リ ス対 象関 係 論のさらなる 影響

投影 同⼀化はエナクトメントにおける 重要 な 要 素 である。 投影 同⼀化は K lein(19 4 6 / 1952) によって 最 初に 描写 された。 K leinは スプ リッティングと ⾃我 の 良 い 部 分と 悪 い 部 分の 対 象 へ の 投影 からなる無意識的な 空想 として 投影 同⼀化を定義した。 W innicott もその概念を⽤ いた。Bion(1962)は 投影 同⼀化を ⺟ 親 と 乳児 との間の 前⾔ 語的および/もしくは 前 象徴的 なコ ミュニケ ー ショ ンを含むもの へ と拡 ⼤ した。Joseph(1992)は Bion の概念に 主体 の 微妙 ではあるが 能 動的な⾏動( ⼼ 的 内 界 の 企 み に 沿 った)を 追 加した。その⾏動はある 雰 囲 気 を 部 屋 の中に⽣ み出 し、ある 情 動、 感 覚 、考えを分析家の中に喚起し、ともすると分析家をい つ もと違 う やり⽅で⾏動させるよ う に つつ く だ ろ う 。そのやり⽅も被分析者( 主体 )の 内 的 ス キ ー マ にやはり⼀ 致 しているのである。 O ʼ Shaughnessy(1992)は、分析 過 程 を 破 壊 する 可 能性 がある2 種類 のエナクトメント、「 孤 ⽴ 地 enclaves」と「 遠 出 e x cursions」を 描写 して いる。「 孤 ⽴ 地」は分析家が分析を 障害 からの 避難所 に 仕向 けると き にそのあとに 続き 、「 遠 出 」は分析家が分析を 逃 避 の連 続 に 仕向 けると き にそのあとに 続 く。 O ʼ Shaughnessy は 部 分 的で限られた⾏動化はあら ゆ る 臨床 状況において 避 けられない 部 分であるが、コンテイン されない結 果 、 孤 ⽴ 地と 遠 出 といった 破 壊 的な 種類 のエナクトメント へ と 陥 っていくこと は 問題 であることを 認 識している。( O ʼ Shaughnessy,1992) さらに、エナクトメントは W innicott の考え(1963,p.3 4 3)の⼀例として み なすことも 可 能 である。 以前 にも論 じ たが、 我々 は 失敗 すること、 つ まりは患者のやり⽅を 失敗 すること で 成 功 する。これは 修正 体 験 による単 純 な 治 癒 理論とはかなり 距離 がある。 W innicott を分

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